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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1718号 判決

控訴人 国

代理人 竹内康尋 奥原満雄 ほか二名

被控訴人 神奈川県信用保証協会

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

事実

一  申立て

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  事実

当事者双方の主張は原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所の請求原因(一)(二)(1)ないし(6)(三)(四)に対する判断は、原判決理由欄一及び二のとおりであるから、ここにこれを引用する。

本件競売事件において端山勝蔵所有の原判決物件目録記載1、2の土地についての競売売得金、手続費用、第一順位の抵当権者株式会社駿河銀行の貸金債権額及び配当額、第二抵当権者である被控訴人に後れる藤沢税務署長と藤沢市長の各交付要求額が原判決別紙第一配当表記載のとおりであることは、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

二  控訴人は、前記特約(原判決事実摘示第二の一(二)(4)参照)は特約の当事者間の法律関係を定めたもので、第三者について定めたものではないし、又右特約をもつて第三者に対抗できないと主張する。

民法五〇一条但書五号、四五八条、四四二条は任意規定であるから、これと異る前記特約は特約当事者間では有効である。しかし、これにつき抵当権を設定しその旨の登記をなす等の公示方法をとらない限り、この特約をもつて第三者、本件の場合にあつては、物上保証人の提供した抵当不動産の競売によつて得られた競落代金に対し交付要求をした後順位の租税債権者である控訴人には対抗できないと解するのを相当とする。

即ち、かような特約がなければ、控訴人に対する関係でも、物上保証人端山勝蔵あての被控訴人の求償権は民法の前記法条により頭割りでのみ行使でき、その利息及び損害金の利率は法定利率に限られる筋合であるところ、仮に被控訴人が前記特約にもとづき公示なくして(本件ではこれが登記により公示されたと認むべき証拠がない。)控訴人に対する関係でも前記民法所定の範囲をこえる求償権を行使できるとすれば、控訴人は不測の不利益を受けるに至るからである。

もとより債権者藤沢信金が貸付金債権の満足を得るために右抵当権を実行したとすれば、抵当権全額につき優先権を行使でき、控訴人はこれを甘受すべき立場にあるけれども、本件はその場合ではなく、連帯保証人である被控訴人の弁済により発生した求償権の満足を得るため、被控訴人が代位取得した抵当権を実行するものであつて、被担保債権及びその公示性が異るから、控訴人の立場は彼比同一とはいえないのである。

三  右の見地に立つて被控訴人の受けるべき配当額を計算すると次のとおりである。

1  別表貸金債権元本欄記載の金額を元本とする貸金債権(原判決事実摘示第二の一(二)(2)(イ)ないし(ニ))についての被控訴人の同表弁済額欄記載の弁済額(同第二の一(二)(5)(イ)ないし(ニ))に関する、その物上保証人端山勝蔵あての求償債権額は、当事者間の前記特約にもかかわらず、控訴人に対する関係では、同表頭数欄記載の頭数(「四」とあるのは、連帯保証人兼物上保証人端山勝蔵、同端山利男、連帯保証人端山一男、同被控訴人をいい、「三」とあるのは、そのうちから端山一男を除外した者をいう。)に応じその四分の一又は三分の一に当たる同表求償債権元本額欄記載の金額である。

<証拠略>によると右求償債務の履行期は、被控訴人が弁済をした日であることが認められる。

2  右事実によると、被控訴人は昭和五二年七月七日現在右求償債権元本計六五四万七九〇七円及びこれに対する弁済の日の翌日である昭和五〇年七月四日から昭和五二年七月七日まで年六分の割合による遅延損害金債権七九万〇〇五三円を有することは明らかである。右同日右元本債権に対し四九四万六四四六円、右損害金債権に対し八三万〇四六四円の各配当があつた事実は被控訴人の自認するところである。しからば右配当により、右遅延損害金債権は全額消滅し、この債権額をこえる配当額は右元本債権の弁済に充当されたとみるべきであるから、右元本債権残額は一五六万一〇五〇円となる。

3  以上の説明によれば、昭和五三年一月一七日の本件配当期日現在被控訴人の求償債権額は元本一五六万一〇五〇円及びこれに対する前記配当の翌日である昭和五二年七月八日から昭和五三年一月一七日まで年六分の割合による遅延損害金四万九七八三円となる。

4  前記競売売得金額から手続費用及び第一順位の抵当権者株式会社駿河銀行に対する配当額を控除すれば、残額は被控訴人の前記求償債権額元本及び遅延損害金全額を満たすに足りるから、右元本及び遅延損害金全額が配当額となるべきである。しかし右金額は横浜地方裁判所が作成した原判決別紙第一配当表記載の配当表による被控訴人の受けるべき配当額に比し被控訴人に不利であるから、ここでは右配当表により配当額を定めるべく、結局被控訴人の受けるべき配当額は遅延損害金一万六六〇円、元本一六〇万一四六一円となる(従つて藤沢税務署長、藤沢市長の受けるべき交付額はそれぞれ四六〇万七六三三円、三〇四万七一四七円となる。)。

四  よつて右配当表の変更を求める被控訴人の請求は理由がなく棄却すべく、これと異なる原判決を取り消し、訴訟費用は第一、二審を通じ敗訴した被控訴人に負担させて主文のとおり判決する。

(裁判官 鰍澤健三 沖野威 奥村長生)

別表 <略>

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